LIVE ART FAIR vol.1児嶋啓多+後藤繁雄 トークライブ

LIVE ART FAIR vol.1児嶋啓多+後藤繁雄 トークライブ

2026年1月31日、銀座・奥野ビル306号室。アーティストの児嶋啓多と、アートプロデューサー・後藤繁雄を迎え、第一回目のLIVE ART FAIR (LAF)が開催された。司会はこのイベントを企画した、野村とし子が務めた。

言語とは何か。生成とは何か。ARと書道、AIとアニミズム━━トークは思いがけない方向へと広がっていった。


言語は人間の道具ではない━━「言語生命論」と『アトラス』

児嶋啓多. Virus Wor(l)d. 2025. Medium: Video & Book. Dimensions (Video): Duration 5 min.Dimensions (Book): 18 × 25 cm.

野村: 今日のイベントのきっかけは、昨年のTOKYO ART BOOK FAIRで児嶋さんの新刊『Virus Wor(l)d』を手に取ったことでした。鮮やかな色、独特の形。パラパラとめくっていたところに、児嶋さん本人から作品の成り立ちを説明してもらって。本を見るだけでも面白いけれど、その成り立ちを知るとさらに豊かになると思って、LAFの第一回目のゲストに迎えようと思いました。

後藤: 僕は、SUPERSCHOOL A&E(アートと編集)というオンラインスクールでアーティストのコーチングをしています。アーティストには、ギャラリーで作品が完売するみたいな数字の上での成功だけじゃなく、生き物としてのアーティストに光が当たる場が必要だとずっと思っていた。今日のようなトークはその一つの形だと思う。

児嶋: よろしくお願いします。僕の作品の核にあるのは、文字や書道・カリグラフィーを3Dデータとして制作し、都市空間にARで配置して撮影する、というプロセスです。そして、その背景に据えているのが、自分で構築してきた考え方━━「言語生命論」です。言語とは人間が使う道具ではなく、まったく別の生命体、あるいは有機体として自律的に存在している。そういう仮説から、すべての作品が展開されています。

後藤: 「アトラス」についても話してほしいですね。この人の原点はそこにある。

児嶋: 「アトラス」は、僕が長年収集してきた画像のアーカイブです。自分の作品、都市の写真、古い書道のコレクション、現代アートの資料━━それぞれフォルダ分けして蓄積してきたものです。これらの画像は「向こうから来たもの」と捉えて、この配置は自分でやらずに、コードでランダムに組み合わせてます。ここから、どの2枚がピンと来たかを自分の直感で選び、それをChatGPTやClaudeに入れて2枚の関係性のようなものをテキスト化してもらう。日付、何枚並べたか、選んだ画像、生成されたテキスト、すべてをログとして残しています。

後藤: この人、文字の成り立ちに本当に興味があって。中国の古代文字や甲骨文字を膨大にストックしている。漢字はもともと象形文字で、亀の甲羅のひびから始まった。始皇帝が統一する以前には、もっと多様な文字が各地に存在していた。今のように情報が溢れ、AIという新しいインフラが登場したとき━━あの混沌とした多様性の時代がもう一度始まっているんじゃないかって、2人でよく話してきたんですよ。

児嶋: 生成AIで最も興味深いのは、言葉と言葉が推論によってくっつき合い、自律的に文章になっていくところです。それはまさに、言語が持つ「運動性」をそのまま可視化してくれる。

後藤: 「生成」というのは向こうの事情で生まれてくるものですよね。亀の甲羅にひびが入って向こうからやってくる、という構造と同じだと思う。AIの出力に意味を感じているのは人間だけかもしれないけれど。

児嶋: そうですね。だから、それはただのアニミズムなんです。言語の運動に「ここに知性がある」と呼ぶこと自体が、一つのアニミズムだと思って。それをアニミズムと呼ぶべきか、別の言葉で呼ぶべきか━━最近ずっとそのことを考えています。


カットアップ、LLM、そして「誤用」のポエティクス━━『Virus Wor(l)d』

児嶋啓多. Virus Wor(l)d. 2025. Medium: Video & Book. Dimensions (Video): Duration 5 min. Dimensions (Book): 18 × 25 cm.

野村: 「アトラス」が画像からテキストを生む流れだとすると、この本はその逆をいっているように見えました。

児嶋: そうです。タイトルの出典はウィリアム・バロウズの「言葉は宇宙からやってきたウイルスだ」という言葉です。バロウズはテキストをハサミで切り刻んでシャッフルし、別の文章を作り出す「カットアップ」という手法を実践していました。LLMが単語と単語の結びつきやすさの推論で文章を生成するあり方は、カットアップと構造的に近しいものを感じたんです。

後藤: 「裸のランチ」の人ですね。変性意識の中で小説を書き、言語実験を続けた作家。

児嶋: その日のニュースをAPIで10本ほど取得し、文節単位でバラバラに分解します。それをシャッフルして再結合すると、文法的に少し歪んだ、でも辛うじて意味が読み取れるような文章が生まれる。それをプロンプトとして画像生成AIに入力する。奇妙な文章であっても画像は生成されてしまう。そして、できあがった画像は、まるで実際の出来事のように「真実らしさ」を帯びてくる。これを朝・昼・晩と3ヶ月間繰り返し、膨大な画像を生成しました。最終的に「Virus Signal」という3Dの文字を乗せて動画を作り、動画をキャプチャーしたもので本を作りました。

児嶋啓多. Virus Wor(l)d. 2025. Medium: Video & Book. Dimensions (Video): Duration 5 min. Dimensions (Book): 18 × 25 cm.

野村: 聞いていて面白いと思ったのは、AIをいわば「正しく」使っていないところです。ちゃんと伝えなければ、という前提を取っ払ってやっている。

後藤: 一種の誤用ですね。

野村: でもその誤用が、すごくアーティスティックだと思った。以前ここでお話しいただいたとき、GANを使って文字の学習をさせて、アウトプットに対して「のようなもの」と「そうでないもの」に仕分ける、という作業を延々と行ったという話があって。AIとの関わり方が独特というか━━。

児嶋: あまりジャッジしないんだと思います。一緒に作っている、という感覚に近い。LLMの中で起きていることと、人間の頭の中で起きていることって、実は同じようなことなんじゃないかとも思うんですよ。どこかの次元で言語の運動が起きていて、それをインターフェースとして見せているのが人間というだけで。その手前に「原言語」みたいな運動があるんじゃないか、という感覚があります。

後藤: 写真家の塩田正幸さんがあるテキストで「シャッターは無意識よりも速く押さなければならない」と書いていた。無意識が起動するよりも先に押して、映ったものを見て初めて発見する、と。それと近い感覚かもしれない━━向こうからやってくる、押させられている。

児嶋: まさにそういう感じです。それが今、バロウズが言ったウイルスとして、僕の中に感染しているのかもしれない。


ライブワーク━━文字を身体で描く

トークの後半は、その場での制作、ライブワークへと移行した。白川静の字典『字統』から後藤がお題の字を選び、児嶋が様々な色の筆ペンを手に、紙の上へと文字を解き放っていく。高校まで書道を学んだ身体知が、デジタルと理論を行き来してきた言語の探求と、ここで静かに交わった。

この日生まれた6点のライブワークは、来場者の持ち物や金銭と交換され、それぞれ新たな持ち主のもとへと旅立った。


アーティストプロフィール

児嶋啓多(1985年生まれ) 

東京を拠点に活動するアーティスト。
言葉と書を用いた作品制作を通じ、都市空間に新たな意味を付与する試みを続ける。
近年の主な展示に「Super Natural!」(YAU CENTER、東京 / UBS Hall、ローザンヌ、Photo Elysée主催)、
「ネオ東京 徘徊と書」(NADiff a/p/a/r/t、東京)など。
2024年にPhoto ElysséeのサポートによりLa Becque Residencyに参加し、新作「Hyperlink Horizon」を発表。
2025年よりハイパーミュージアム飯能でのAR作品「草木虫魚のコトダマと遊ぼう」など、「ハイパーネイチャー」をテーマとしたプロジェクトを展開中。
Instagram: @keitakojima_ab


余白ノート

今回のトークで改めて感じたのは、作品は完成された「もの」としてだけでなく、思考や試行のプロセスとして存在しているということだった。展示では見えにくいその部分が、言葉を通して明らかになるとき、作品の見え方が少し変わる。

アーティストの言葉は、解説ではなく、もうひとつの作品かもしれない。そこには、まだ形になっていない考えや、揺れている途中の思考が含まれている。そして、その場に立ち会うことでしか生まれない関係や理解がある。

だからこそ、この場を続けていきたい。

完成された作品だけでなく、その手前にある運動や迷い、偶然や誤用のようなものまでを共有できる場として。言葉と作品の間にある、まだ名前のついていない領域に触れるために。

LIVE ART FAIRは、そのための小さな実験として、これからも続けていくつもりだ。

野村とし子

LIVE ART FAIR supported by A&E vol.1
2026年1月31日(土)18:00–19:30
奥野ビル306号室
アーティスト:児嶋啓多 
トークゲスト:後藤繁雄 
司会進行:野村とし子