生きられた家での在廊日記(2022.5.15)

生きられた家での在廊日記(2022.5.15)

2022年5月23日

5月15日(日)くもり

昨日はだいぶ暑かったが、今日は冷んやりしている。曇っているが雨が降らなくてよかった。

なぜこの家で展覧会をするのかを書いておきたい。2009年、私が失職中にPLAS(プラス)というNGOでボランティアとして参加することに。私のプラスでの活動は十年程だった。そこで出会ったみおさんが思い出がたくさんあるおばあちゃんの家を壊すことになったとFacebookに投稿したのが昨年の11月頃。

みおさんが築85年を迎えようとしている住み継がれてきた日本家屋に住んでいるとは全く知らなかった。私は今の家に住む前に夫の祖母が住んでいた戦前に建てられた看板住宅に15年程住んでおり、そこを取り壊す際には何のセレモニーもなく粗大ゴミを置いたまま去った。それが心残りで、みおさんの投稿にその時の自分を重ねてしまった。一夜漬けで作った展覧会企画書を手に、初めてこの家を訪れたのは昨年12月。住み継がれた家は地方では珍しくない(私が住んでいた頃は)。が、東京23区にあるとは!

まず門扉から家屋までのアプローチが長いことに驚いた。建てられた当時は普通だったのかもしれないが。住み継がれたことが伝わってくる。そして玄関の引き戸を開けると広いたたきと畳敷の廊下が…。一階の床の間のある八畳とその隣の六畳には南側の庭を眺められるよう雪見障子があり、欄間も古いまま残っている。八年前まで使われていたという一階は家財も残っており、生活感があった。

それと対照的なのが二階。家財は全く残っておらず、かつて敷かれていたじゅうたんは剥がされ、剥き出しの板が見える。床の間がある八畳間の畳はだいぶ痛んでいる。同じ家でありながら、一階と二階の印象が全く異なる。二階は階段を上って右側が元々あった構造物で、左側は昭和50年代に増築されたとのこと。レースのカーテン、造り付けの戸棚、部屋の作りに合うように設置されたシステムキッチン(の初期のものか?)が美しい。

この二階で最も印象的なのが、南側の廊下の杉板。木目が手触りとして感じられる。建築された当時にはこの手触りはなかっただろう。85年の営みが蓄積された木目の手触り。私はこれを自分の方に引き寄せたくなった。杉板の上に紙を敷き、木目の強弱のリズムを感じながら鉛筆でなぞった。

PRIVATE HOUSE 生きられた家|85年生きられた家でのアート展
  PRIVATE HOUSE生きられた家 85年の歴史を持つ日本家屋にて開催するコンテンポラリーアートのグループ展。展示の会場となるのは、昭和12年に建てられ…
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