前田梨那個展「happened」終了報告

前田梨那個展「happened」終了報告

2023年3月15日

2月27日から開催した「happened」は、3月4日に最終日を迎えた。6日間の来場者数は約150名。終盤は来場者数も多く、中には二回来てくださった方もいらっしゃり有難い限り。

企画者としての気づき

企画者としての今回の気づきは、306号室と作品との共存を考えた時に光という形のないものだったから場に馴染んだのではないかということであった。来場者の方々も気づいたのではないかと思うが、光を当てていたもの(剥がれた壁、建物の凹凸)こそが主役のように見える瞬間もあり、その時の『地と図の反転』に作品と会場とのコラボレーションを感じた。とはいえ、光は、作家によって切り取られ、質感や強度も作家によってコントロールされていて、作家の介在も強く感じられており、それが今回の特徴だった。

他者や気配をテーマに現像手順を組み換え、イメージを浸食するような写真作品を制作してきた前田梨那さん。写真のことを考えていたらその前の段階の光について関心が出てきたということで、切り取られた光が回るインスタレーションという形での展示となった。昨年11月の展覧会でもその仕組みを拝見したが、私が惹きつけられたのは、その仕組みが光源で温められた空気で回転させるという走馬灯同様の原理であったことだった。

なお、走馬灯が二重構造の灯篭になっていて内側の絵の光と影が外側の枠のスクリーンに投影されるのに対し、前田さんの灯篭は外側の枠がなく光と影が会場に投影されるという違いがある。このような、見る場所によって光の像が変形する性質とこのようなインスタレーションの可能性に前田さん自身が自覚的になって再展示を考えたのだろう。展示を振り返ってみると、そう強く思ってしまう。なお、わかりやすいように『再展示』と書いたが、確かに見た目は再展示に見えるが、灯篭のパーツは諸々バージョンアップされており、再展示と言ってしまうのは気が引けることも記しておきたい。

今回のインスタレーションはモノが動いて見える映像とは全く違うのだけれど、光が会場を動き回り凹凸に応じて変形する様は、私には映像との出会いのように思えた。おそらく来場者の方々も同じような出会いを感じていただけたのではないだろうか。

実験美容室について

今回の「happened」開催のきっかけは後藤繁雄さんだ。昨年秋に後藤さんが展示をキュレーションした日本橋アナーキー文化センターでのオープニングパーティに行った際に、(私が病気療養中ということもあり)ゆっくり何か企画など考えたいと伝えたところ、後藤さんから誰かの個展でもやってみるのもいいのではとお聞きし、それが今回の展覧会に繋がった。

私は後藤さんの私塾SUPERSCHOOL online A&Eに参加しており、参加者たちとは2021年以降3回ほどグループ展を開催していて、最初の2回は306号室で行った。その時の展覧会に前田梨那さんが来場して、それ以来お互いの展覧会などでお会いするようになった。

今回の展示内容は当初から昨年11月の前田さんの展覧会と同様なインスタレーションと決めていたのだが、306号室でやる意味を私自身に問い直してみた。そして、306号室がホワイトキューブとは違い元美容室の痕跡が色濃く残っていることを逆手にとって欲しい、狭い部屋なのだからあえてここでしかできない実験を試みて欲しいという思いに気づき、実験美容室というシリーズの第一弾として前田さんをお招きすることにした。

前田さんとは306号室で二度リハーサルを行ったが、上述したように展示場所によって光の像の出方がだいぶ変わることに気づいて、前田さん自身も実験的なこと、例えば鏡の多用、映像作品とのまさにイメージの浸食など、灯篭のブラッシュアップにとどまらないあれこれを加えたことはチャレンジングだったに違いない。

また、私にとっては既に病気療養は終わったつもりだったところに細菌感染(コロナでもインフルでもなかった)で会期中2日間休んでしまい、前田さんと私の代わりに在廊した野村秀樹さんには迷惑をかけた。元に戻ったと過信せずに、会期中ちゃんと在廊できるようになんでもない時から心掛けたい。

実験美容室は今後も不定期開催するつもりなので、ここでしかできない実験を試みたいアーティストからの提案をお待ちしています。

※展示の様子などは後日アーカイブとしてまとめます。